
©:佐原ミズ 新潮社 2007
佐原ミズさんの、純愛をテーマとした連作短編集です。
飛行機を1日に10回見つけられたら願い事が叶うと信じている少女と、営業に苦戦している住宅セールスマンの青年の交流を描く「空曲がり停留所」、高校の生物教師と教え子の少女の5年越しの恋を描く「さくら町停留所」、戦争が元で隔てられてしまった少年と少女の哀しい恋の物語「ダドレアの路」など、5編の短編からなる『バス走る。』に加え、なかなか想いを伝えられない、2組の少年少女を描いた『ナナイロセカイ』が収録されています。
相手を想う純粋な気持ち、それを伝える様々なコミュニケーションの形が、繊細かつ爽やかな筆致で描かれています。恋愛漫画としてはスタンダードなのですが、絵の優しさや独特の長閑やかさがあり、読んでほっとするような雰囲気の作品です。
また、キャラクター、殊に女性キャラがユニークで、作中で面白い存在感を持っています。年上の男性に向かって「嫁になって」と言ったり、傘の中にメッセージを書いたり、話しかける口実を一生懸命に探したり、といった具合に、それぞれが自分なりの方法で想いを伝えようとしている姿は、読んでいて胸にじいんと来ます。
先に刊行された『マイガール』でも感じたのですが、作画の面で特に「眼」の表現が上手です。微妙な描き分けで、喜怒哀楽といった感情を情感豊かに表現しておられます。また、ストーリーも、シリアスとコミカルを適度に織り交ぜ、メリハリのある構成になっています。
A5版で1200円という値段は多少、高めに感じられるかも知れませんが、充実した内容や、単行本としての完成度から判断するに、妥当、あるいはそれ以上の価値が詰まっているように思います。キャッチャーな表紙、カバーの素材やレイアウト、巻頭の穴開きトレーシングペーパーに見られる洒脱さ、28ページに渡るカラーページなど、内容もさることながら、デザインワークも好いですね。
配本がやや偏っていて、「ある所にはある、ない所にはない」状態のようです。見かけたら、迷わずその場での購入をお勧めします。