
©:スイ
鳩 2006
カロチーラのお話の第4作目の作品です。
2月の寒い日、悲しげな表情をした女がルーの理髪店を訪れます。名はシェンナ。彼女は、かつて自分を捨てた恋人を殺めたものの、逃亡中にルーに匿われ、一時彼と同棲していた過去を持っています。しかし、そんな生活も長くは続かず、先行きに惧れを抱いたルーの告発で逮捕され、長い服役生活を送ることとなります。それから7年、シェンナが再びカロチーラの街に戻り、ルーの前に再び姿を現した理由とは?
愛に飢える悲しい女と、過去に向かい合う男との交錯を描いた作品です。
心の隙間を埋めるために、シェンナは静かに情熱の炎を燃やし続けていますが、その穏やかな微笑みの中に、拭いがたい翳の存在を感じさせる表情描写が素晴らしいです。狂気……とまでは行かないまでも、過去に縋る強い情念を感じさせる、きわめて強烈なキャラクターです。
対して、ルーは一見、感情の起伏の少ない人物として描かれていますが、クールな表情の奥に、孤独と深い悲しみを背負っていることが明らかにされます。シェンナとルー、対照的なようで実は似通っている2人と、ルーに助けられて前向きに人生を歩んでいるミルラ、物語において、それぞれが重要な役割を担いながら、静かにストーリーは進んで行きます。
終盤、ルーとシェンナが相対する場面がありますが、22ページに渡り、ぴんと張り詰めた緊張が続きます。この一連のシーンでは多くの要素、例えばお互いの感情や過去、そして未来が交錯しており、悲しくも美しく、読み応えがある内容でした。
カロチーラの物語は、いずれも個性あって興味深い作品でしたが、この『scissor』は作画の安定感、現在の中に過去のエピソードを織り交ぜた構成、心理を簡潔かつ的確に表現したモノローグなど、最後を締め括るのに相応しい、深みのある作品だったと思いました。
【了】